■act.5

イラスト・柊のぞむ様

 「結局なーんにも対策はなかったってことだよね」

 私の声に、飛影はフンと笑った。

 「当たり前だ。お前ごときが蔵馬に勝てるわけがないぜ」

 ……相変わらず、身も蓋もないね、飛影。

 最初っからわかってるけどね。
 私はグイッと背伸びして空を見た。

 12月の空はキンと張り詰めていて、淡くて、眩しかった。

 周囲に目を遣ると、何だか人の気配が多くて物騒がしい。

 「……今日、何かあるの?」
 「知らん」

 訊ねると、飛影は素っ気無く横を向いた。

 そう言えばさん見つかったのかな。
 これ以上修行してもあんまり意味なさそうだし、捜索隊に入ろうかな。

 ……とりあえず幽助、どこにいるかな。
 ラーメン屋か、連載……

 私がそちらに足を向けると、飛影がコートの裾をつかんだ。

 「どこに行く。道場はこっちだ」
 「え? いや、さんどうしたかなと思って」
 「あんなやつ放っておけ……」「あっ! さん!」

 私は建物の陰にさんの姿を見つけ、近付きながら声を掛けようとした。
 だけど、陰になっていた場所に蔵馬がいることに気付き、足を止めた。
 別に、あのふたりだったら話に割り込んでも怒るようなことはない。
 むしろいつも歓迎してくれる……けど。

 急に足を止めた私の後ろに飛影が追いつく。

 「どうした」
 「飛影」

 私はふたりに目を奪われたまま、彼を振り向くこともできずに声を掛けた。

 「蔵馬は、さんのこと、好きなのかな」

 視線の先で、蔵馬はさんの肩を両手でしっかりとつかんでいた。

 「さんは、蔵馬のこと、好きなのかな」

 さんは彼に押さえつけられ、顔を覆って俯いている。

 「……知るか。道場へ戻るぞ」

 私はその場から動けない。

 「早くしろ」

 蔵馬は困ったように息をつくと彼女を促し、肩を抱くようにして建物に入った。

 「来ないのか?」

 私は声を出すこともできない。

 「オレは行くぞ」

 足音が去っていく。

 私はひとり取り残され、そのまま動けずに立ち尽くした。

 頭の中で今日起こったことがぐるぐると回り、浮かび上がる。
 道場の修業、代わる代わる姿を見せて行った皆……黄泉さんの前で考えたこと。

 ……私、また蔵馬とさんにからかわれているんだよね?

 無理やりに笑顔を作ってふたりが消えた建物のドアを押す。
 ひんやりとした空気が私を包んだ。

 建物の中は何だか不思議な感じだった。
 人がいっぱいいそうで、華やいだ雰囲気があるのに、誰の姿も見えない。
 物音ひとつ聞こえない。
 はっきりとわかるのは、お花の匂い、お料理の匂い、甘いお菓子の匂い。

 誰かいないのかな。

 私は近くのドアを開けようとする。
 が、ドアには鍵がかかっていた。

 ここも。

 ここも。

 まるで、あのふたりの本心を隠しているようだ、と思った。
 ふと、静まり返った建物の中で、人の話し声が聞こえた気がした。
 私はその方向へそっと近寄る。

 「妬いてくれたの? 蔵馬」

 さんの弾んだ声が耳に入り、私は足を止める。
 鼓動が急に早くなる。

 唇を噛んで考える。

 あのふたりは多分私を傷付けまいと、本当のことは言ってくれない。
 丁寧に丁寧に、柔らかくて綺麗なところだけ見せるような気がする。

 「火傷しますよ」

 蔵馬の声にさんの短い悲鳴がかぶさり、ドキッとする。
 それきり声は聞こえない。

 私は勇気を出してドアにそっと近付いた。

 また低い声で会話が始まった気配がする。
 でもここからじゃ良く聞こえない。
 蔵馬は耳がいいから、ドアに耳をつけたりしたら絶対気が付かれる。

 私はキョロキョロとあたりを見回し、裏口を見つけた。

 窓の外の方が聞こえるかもしれない。

 幸い、ふたりのいる部屋の窓は薄く開いていた。
 私はその下の植え込みにそっと身を潜める。

 「……そんなにのことが気がかり?」
 「当たり前でしょう……」

 ふたりは仕事でもしているのか、かちゃかちゃと金属音が聞こえる。

 「あなたも人が悪いな。
  に秘密にしておけと言ったのはさんでしょう」

 「……そうだけど」

 私はコクンと息を飲んだ。

 「このままじゃ彼女にバレるのも時間の問題かな」

 心臓の音がどんどん大きくなる。

 「まあ、確かにオレだって心配ですよ。
  時間も掛かりすぎているし、もしかしたら気付いているかもしれない。
  こちらの態度を不審に思われたら、却って傷付けることになる」

 ぽろっと涙が膝に落ちる。
 そのまま、私はゆっくりと立ち上がった。

 ――ひどいよ、さん。
 蔵馬のことなんて何とも思ってないみたいなこと言って。

 好きなら好きって、ちゃんと言って欲しかった。

 だって、もともと蔵馬のお話を書いているんだから恥ずかしいことなんてないでしょ?
 どうして隠すの?

 応援してくれているようなふりして、幸せにしてくれそうな顔して期待させて……
 それがさんの見せる夢?

 蔵馬だってそう。
 私だけを愛しているだなんて、嘘ばっかり。

 ふたりともうそつき。
 ふたりとも……大嫌い。

 涙は止まることなく流れ続け、私は道場の入り口でついに座り込んでしまった。

 なんでこんなところに戻ってきたんだろう。
 もう道場なんてどうでもいいのに。
 蔵馬が黒くなろうがさんがいじめられようが、関係ない。
 蔵馬もさんも、私にはもう何の関係もない。

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The other side of act.5


蔵馬と殺し合ってる気分です。

20061230