「あっれー? 飛影にのおねーちゃん」

 突然背後から声がし、私は驚いて振り向く。

 「珍しい組み合わせだね、浮気?」

 鈴駒は相変わらず器用にヨーヨーを操りながらニコニコと手を振った。

 「だめだよー、おねーちゃん。
  浮気なんてすると後で血を見るぜ?」

 おおよそ外見にふさわしくない生意気な台詞がそれはそれで可愛い。

 「浮気じゃないの。
  飛影は大切なお友達なんだから。
  ね、鈴駒、凍矢いる?」

 「うん、中にいるよ」

 鈴駒はヨーヨーで居酒屋の入り口を指した。

 ■act.4

イラスト・柊のぞむ様

 「……で、このサイトを凍結させろと?」

 凍矢が呆れたような顔で私たちを見る。

 「フン。今だって更新停滞で凍結状態ではないか」
 「はっはっは、違げーねー」

 死々若丸が冷たく切り捨てると、酎が隣で爆笑した。

 「つうかよ、そんなことしたらここの客おっ死ぬべ?」

 「第一……武術会の戦いを覚えていないのか?
  蔵馬は自分の体内で植物を育てたぞ」

 あ、そうだった。
 いやいや、そうそう、閲覧者さんたちの危険もあるんだ。

 私は愛想笑いしながら頭を掻いた。

 「だったらやはりその道化に頼るしかないだろう」

 飛影が冷ややかな視線を鈴木さんに向ける。

 「道化……! 貴様みたいなチ」「鈴木さん、除草剤作れる?」

 「もちろんですさん!」

 危ない危ない。
 あと少しで居酒屋ブラッディ・クラマに変わるところでした。

 「というか話を聞きながら作りましたさん!」
 「早!!」

 突っ込んだのは私の声だけではなかった。

 「これぶっ掛けたら蔵馬枯れたりしねーべか?」
 「大丈夫だろう、あの蔵馬が鈴木の薬ごときでは」
 「意味ないねー」

 鈴木さんの作ったインスタント除草剤をゆすって、彼らは好き放題並べ立てていた。
 いや、もともと蔵馬は草じゃないし……三歩譲っても狐だし……。

 「いや、あれは魔界・人間界ユニバーサル仕様のなかなか強力な除草剤だが……
  根本的に間違っていないか?」

 「その通りです……」

 鈴木さんに言われて、私はがっかりと肩を落とす。

 「蔵馬の何が怖いか? それはあのわけのわからんプレッシャーだろう」

 そうそう。
 だからみんなを慣れさせるためにさんは道場を作ったんだ。
 そんで幽助に言わせるとそれは付け焼刃で意味はない。
 つまり打つ手なし……。

 「いや、そうでもないだろう。
  心理攻撃と言うことは、ヤツは相手の弱みを突く天才ということだ。
  ならば弱みを握らせなければいい」

 死々若丸が当たり前のようにサラッと言う。
 それを聞いて、陣は胡坐をかいた膝の上に頬杖をつく。

 「普通の人間には無理だべ?
  まず力に訴えられたら勝てやしねえ。
  それだけでじゅうぶんな弱みっちゅうわけだ」

 「だったら逆に蔵馬の弱みを握りゃーいいじゃん」

 私たちの視線が一斉に鈴駒のあどけない笑顔に集まる。

 「お、おめー、意外と恐ろしいこと言いやがるな」
 「一理あるな……」

 鈴木さんが呟いた。

 「え?」
 「あれだけ長生きしている妖怪だ。過去を洗えばひとつやふたつ……」
 「……黄泉か」

 死々若丸の言葉に、私は思わず手を打った。

 「その手があった!」

 不意に、じっと黙っていた凍矢が口を開く。

 「蔵馬の……いったい何が怖くて、何が凶悪なんだ?」

 魂を売る、という手もある。
 ぽそりと死々若丸が呟いた。

 「ほお、蔵馬の弱みをな……」

 黄泉さんは湯呑みを置いて低い声で笑った。

 ――カコン。

 ししおどしの音が遠くで響く。

 「思い当たることはあるが、恋人のお前にはちと話しにくい内容が多いかな」

 え……それって……昔の恋人関係とか……
 私は戸惑って俯いた。

 聞きたくない。そんな話。
 ギュッと目を閉じると、何故かさんを探していた蔵馬の顔が浮かぶ。
 それに重なるように、涙をいっぱいにためたさんの横顔。

 ――そう言えば――

 何となく道場で起こったことが思い出される。

 を好きだと言うさんをじっと見つめた蔵馬。
 さんは「私を通してさんを見ている」と解釈した。

 でも、蔵馬は本当にそう思っていたの?

 「妬けた……とでも言って欲しかった?」
 「蔵馬に食べさせてもらえて幸せ~」
 「さん、そんなにオレのこと嫌いですか?」
 「おやおや、天下の黒蔵馬が酔うなんて珍しい」

 あのふたりはいつも冗談ばっかりで……ふざけてばっかりで……
 ……何を考えているのか……何を思っているのか……
 本当の心が……見えない。

 正直、犬猿の仲っていう言葉はあのふたりのためにあるんじゃないかって思う。
 ……のに、そのふたりにさえ心を揉んでいる。

 そこにたとえ過去でも、本当に蔵馬の愛した人の話なんて聞いたら私は……

 沈黙を破って黄泉さんが口を開いた。

 「なるほどな」
 「……え?」

 黄泉さんはニヤッと笑った。

 「原因はお前だ」

 私は涙をためた目で、ぽかんと彼を見た。

 「お前はからかうと面白い」

 ゴン!

 力が抜け、座卓におでこをぶつけてしまう。
 ぐったりしている私に黄泉さんの笑い声が覆いかぶさる。

 「宿命だ。諦めろ」

 障子の外に座り込んでいた飛影の、鼻先での笑いが、そんな私に追い討ちをかけた。

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The other side of act.4


六人衆は居酒屋のお留守番です♪
ある意味この人たちの方が繁盛しそう。

20061230