■act.3

イラスト・柊のぞむ様

 やっぱり何か気になる……。

 いつまでもさんの後姿を追っている私に、飛影が無遠慮な声を投げた。

 「と入れ替わったらどうだ?」

 飛影は机の上に置いてあった入門案内をパラパラとめくっていた。

 「え? 管理人コース? 一応受けたよ?」

 「あの女が外部の人間、お前が内部の人間になるということだ。
  蔵馬は外面だけはいいからな」

 ニヤリと笑った飛影の紅い瞳が私を竦めた。

 「柳さん家に行ったときにね、蔵馬が言ってたの」
 「……なにを」

 飛影が閉じていた目を開ける。

 「さん家の蔵馬があくどくなった原因のひとつは、絶対さん自身だって」
 「あいつが書いているんだから当然だろう?」

 私もそのときはそう思ったんだけど、ちょっと今捉えかたが変わったというか……

 「蔵馬は確かによそよりちょっと黒いかもしれない」
 「ちょっとというのかあれが」
 「でも基本的に凶悪になるのはさんに対してだけなんだよね」

 ほう。
 飛影は呟いて笑いを含む。
 うーん。けどまあ……

 「ただ単にソリが合わないって言うか、相性が悪いって言うか」
 「多分に間違いではないな」

 何でもっと歩み寄ろうとしないんだろ、あのふたり……

 私は窓の桟に片肘をつく。
 ――と、バタバタと慌しい足音が聞こえた。

 どうしたんだろう?
 振り向くと、走っていた蔵馬と目が合った。

 「?」

 彼の唇がそう言うように動き、こちらに走ってくる。
 私は慌てて窓を開けた。

 「蔵馬」
 「さん見なかった?」

 いつになく差し迫った表情で、彼は弾んだ息を押し殺すように口を閉じた。

 「え……あ、さっき……っていうかかなり前だけど見たよ」
 「本当? 話した?」

 12月の冷たい風が部屋に吹き込んでくる。
 蔵馬は真剣な顔で私を見上げた。

 「ううん。泣いてたみたいで話しかけられなかった。
  ……さん、どうかしたの?」

 「……いや」

 蔵馬は言葉を濁し、ちょっと横を向いた。
 澄んだ瞳に苛立たしげな影が落ちる。

 が、ハッとしたように目を上げると、またこちらを向いた。

 「遊びに来てたんですね」

 そう言って彼はいつものようにふわっと微笑む。

 「今ちょっとバタバタしちゃっているんですが、終わったら迎えに来ます。
  待っててくれる?」

 私はこくりと頷く。

 「さん、どっちの方向に行った?」

 私はサイトの出口を指差す。
 蔵馬は短くお礼を言うと、風のように走り去った。

 ふんわりと、甘い花の香りだけが淡く残る。

 ……真剣な目。

 彼が私に向ける表情はいつも柔和で、甘美で……
 春の陽射しのような、あたたかな……

 それはつまり思慮深い彼があらゆる危険を予測して避けてくれているから。
 私がいつも笑顔で、そして彼も安心していられる場所を見つけてくれるから。

 口元を手の甲で強く抑えて涙をいっぱい溜めていたさんの姿。
 怖いほどに冴えた表情でその彼女を追っていた蔵馬。

 ……私は、わがままなのかな……

 額にこぶしを押し付け、窓の外を見る。

 キー、バタンっ!

 突然雰囲気をぶち壊すような例の隠し扉の音がした。

 「よう、!
  ああ? 飛影、おめーこんな所にいやがったのか」

 幽助は入ってくるなり、陽の光のようにこの部屋の空気を変えた。

 「なー、おめぇら、見なかったか?」
 「……今、蔵馬も探してたよ。行方不明?」
 「ああ? 蔵馬来てたんか!」

 けたたましい笑い声が部屋に充満した。

 「ひー! ひ! 飛影が師範! 黒飛影道場! ぎゃはははは」
 「死にたいか、幽助」
 「だっておめー、腹黒ってより総黒じゃんかよ! ひゃはは」

 ご丁寧に涙まで浮かべて幽助は机をダンダンと叩いた。

 「……もも”黒”ではないといいやがる。ちっ」

 「わーはーはー! そりゃそうだぜ!
  こいつらの言うのは腹黒だっつーの。

  ――やあ、僕の名は毛■■。穏やかで控えめな魚座のA型。
  最近の悩み?
  そうだな、手の焼ける仲間を持ったせいで、気の休まるときがないことかな。

  みたいなやつがだな……」

 っ! さん! 今出た! すごいの出た! やばいの出た! ラスボス出た!
 あまりのプレッシャーに、反射的に机の下へ潜り込む。

 「おい、おめー何隠れてんだ」

 怖かった……。
 黒飛影師範の修行より、この一瞬の方が命に関わった……。

 私はロボットのようにぎこちなく元の場所に戻る。

 「つうかよ、もう10年以上一緒にいるオレたちが慣れねーんだぜ?
  そんな付け焼刃で蔵馬に勝てるかっつーの」

 た、確かに……。
 飛影と私は思わず顔を合わせる。

 「根本的に考えろよ。あいつの何が怖いか。
  とりあえず怒るとあのおっかねー草出してくるだろ?
  だったら草のほうを封じた方が早えぇんじゃねーか?」

 ゆ、幽助、実は頭いい?
 私たちは思わず唸る。

 「なるほどな」
 「でも、具体的には……?」

 幽助は椅子の上でふんぞり返った。

 「おー、そういやさっき居酒屋で六人衆に会ったぜ?
  鈴木に除草剤作らせるとか、凍矢にそこいら中凍らせてもらうとか……」

 ……やっぱり幽助だ……。

 「行くぞ、」

 って、飛影もやっぱり幽助!?

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The other side of act.3


:さん、その心は?
:幽助、と書いてバカと読む。

20061230