■14:57 道場前
「……飛影、ちっと」
幽助はポケットに手を突っ込んだまま、首を動かして飛影を呼び止めた。
「なんだ」
振り向いた飛影だったが、幽助が近付いてくる気配はない。
ひとつ舌打ちをして仕方なく引き返す。
はその向こうでおとなしくその様子を見ている。
幽助はそんなに背を向けるように身体をずらすと、ぼそぼそと飛影にの話をする。
「お前ら、ついに頭にウジがわいたか」
「我ながら否定しねーけどよ」
「ふん、バカバカしい」
飛影は無表情に踵を返す。
ぽりぽりと頭を掻きながら、幽助はそれを見送った。
「……そういや……話をでかくしたのって、もしかしてオレか?」
■15:48 居酒屋黒蔵馬
「いよう! 真面目に頑張ってっか?」
「ゆーすけ!」
陣が耳をぴんと尖らせて飛び出してくる。
彼に引っ張られるように店内に入った幽助は首を傾げた。
六人衆の様子はいつも通りのようでありながら、いつもとは少し違う気がした。
不思議に思いながらもその輪の中に入る。
「い……いや……だからな……何つーか……」
「本気で違和感を感じないのか?」
こいつらは大抵こうだ。
いつも誰かが素っ頓狂なことを言い出して、それを皆でからかったり、時には狼狽したり。
「凍矢がちっと変なことを言い出してよ」
特に積極的に会話に参加する意思のなさそうな顔で、陣が幽助に小声で告げた。
幽助はようやく違和感の正体に気付く。
幽助が知っている限りでは、凍矢が彼らの台風の目になることはなかった。
そりゃ珍しいな。
そう返すと、台風の目は幽助を見た。
「浦飯。蔵馬はいつも優しくて丁寧で温和な男だろう?」
「う? ……いやまあ、そうっちゃあそうだけどよ?」
「そら見ろ。いつも一緒にいる浦飯がそう言ってるんだ」
すがるような目で聞いてきた凍矢は、みるみる元気を取り戻す。
性格さえ悪くなければ。
続きの言葉を幽助は飲み込むしかなかった。
「だからそれは表の顔だってば。なーんでわかんねーのかな」
「お前にはわからんのか、あの毒々しい雰囲気が」
仲間たちはひるみながらも抵抗する。
「あいつ、どうしたんだ?」
幽助はそっと陣に耳打ちする。
さっきが来てよ……陣は簡単に説明する。
が、端折られすぎていて、幽助は余計に混乱した。
しかし幽助は再度の説明を求めるでもなく、天井を仰いでにやっと笑う。
六人衆が蔵馬に付いたと知ったとき、ある種の驚きを感じた。
蔵馬はいったいどんな犠牲をはらったのか、或いはどんな圧力をかけたのか。
その手段については彼には知る由もない。
ただ、それはその場の一時的な契約ではなかったのだろう。
霊界と関わるようになって以来、ある意味では家族より近い距離で過ごしてきた仲間。
自分とちょっと離れている間に彼が作った仲間は、オレと似たような目で蔵馬を見ている。
あいつは表面的には聖人君子だが、実は怖いヤツだという認識も。
そして凍矢の「オレだけは他のやつの知らない蔵馬を知っているんだ」と思いたがる気持ちも。
それが幽助には嬉しいような、どこか淋しいような、そんなくすぐったい気分だった。
20061230