「ちょっと、蔵馬、聞いてる?」
「……あ、すみません」
「もう! そういうところよ!」
「もうちょっと欲があってもいいと思うんです」
「女に興味ないとか思われちゃうよ、このままじゃ」
「こうなったら私たちがプロデュースしましょう! 黒蔵馬をモテ蔵馬に変身させるんです!」
グッと握りこぶしを作った彼女の前でオレは静かに視線を外す。
また面倒くさい話になってきたな……。
「とはいえ……」
オレを取り囲んだ女性たちはそのまま考え込む。
「基本スペックは非常識に高いんですよね」
「でもそれ全蔵馬共通だから」
「キャラが弱いとか……」
「黒蔵馬ですもんね。腹黒……」
「糸目で」
「京都弁で」
「C.V.石田彰で」
「
」
「そんなの蔵馬さんじゃありませんー!」
「や……やめてください……想像すると腹筋が崩壊するであります……」
「性格が悪くなったらますます嫌われるんじゃないですか?」
組んだ膝の上で頬杖をつくと、彼女たちは顔を見合わせる。
「嫌ってるわけじゃなくて人気がないだけです」
全く何のフォローにもなっていないな。
思わず笑いだすオレの前で、彼女たちは真っ青になって両手を振る。
「あ、いや、人気というか、ツカミ?」
「というか、薄い?」
「そうそう! だからやっぱりもっとこう、キラキラの王子様っぽく」
そんなモノが暗黒武術会や魔界統一トーナメントに現れたらそれはそれで面白いかもしれない。
……いや、鈴木の仲間と思われるのがオチか。
「あ、これなんてどうでしょう」
「さっきの仕返しですね」
彼女たちはスマホのモニタを覗き込んで黒い笑いを浮かべる。
「『少女漫画あるある50』! えっと……眼鏡キャラはたいてい腹黒」
「眼鏡……似合うけど、ちょっとでも顔が隠れるのはもったいないというか……」
「っていうか腹黒に戻ってます。目指してるのは正統派王子様です!」
まずい流れだ。このままだと白タイツをはかされるぞ。
「ケガしたヒロインをお姫様抱っこ」
「キャー! それいいです! キュンキュンします!」
「王道ですよね! ……あ、でも、蔵馬のお姫様抱っこは見たことあるかも」
「もともと若菜さん、少女漫画目指してるって言ってましたしね」
「というと、やはり壁ドン、顎クイ……」
「それっぽいことはやってますね」
「っていうか若菜さんの話ってどっちかというとこちらのほうが近い気が……」
別のスマホが差し出され、再び額が集まっていく。
「『主人公に恋人ができてうまくいき始めると、強気で積極的にアプローチしてくる新キャラクターが現れる』、『主人公が“もう、私のバカバカ”と自己批判』、『主人公が平凡な顔立ちで、友達やライバルが美少女』、『地味な外見ながら内面は明るく前向き、ドジっ子』、『告白して両想い、キスしたら最終回』、『ヒロインが自分がモテていることに気づかない』、『恋のライバルが後に大親友になる』……まんまですね。若菜さんこれ見ながら書いたのかな」
「いや……このサイト……『昭和の少女漫画あるある』」
「……このサイトを見たことは若菜さんには内密に」
「美馬さんも昔は少女だったんですね」
「蔵馬、しっ!」
「ヒロインじゃなくてヒーローはどうなんだろ……えっと……『男が今じゃホストも着ないようなフリルのブラウス着て出てくる。袖もフリフリ』」
全員の視線がこちらに注がれる。
「『男はだいたい天パ、柄シャツ、ラッパパンツ。入浴中に黒電話で電話する』」
「『番長が捨て猫を拾ってる』」
「『リンゴをジーパンでゴシゴシと拭き、そのままかじる』」
「『口から流れた血を親指でピッ』」
「『洋館に住んでいる』」
「『トッぽいあんちゃんはモテる』」
口々に怪文書を読みながら、彼女たちは間合いを詰めてくる。
「天パってほどではないけど、結構根性のある癖毛だし……柄シャツってアロハシャツでいいのかしら? ラッパパンツってなあに?」
「歩くと音が出るパンツでしょうか。ブーブークッションみたいな……」
「あ、キッチンにまだ切ってないリンゴがあったような……? 洗ってきますね」
「猫じゃないけどウサギならここに」
「ヨミミミー♪」
「『トッぽい』ってどういう意味ですか?」
「若菜さんが若かりし日の望さんの形容詞に使っていたような……意味は分からないけれど……」
「望さんみたいな蔵馬? ちょっと背が高すぎますね」
「黒電話というのは、白い電話や赤い電話だとダメってことなんでしょうか。お風呂で使うくらいだから携帯ですよね。昔ならガラケー?」
少女漫画こそ読んでいないが、それらの単語は知っている。
知っているが、口を開けば自分の首を絞める。
……しかし、この場合、どちらがダメージが大きいのだろうか。
彼女たちの曲解はどこまで突き抜けていくのか。想像がつかない。
「基本的に背景は花と点描だそうです。花瓶を後ろに持ってきましょう」
「壁にスクリーントーンでも貼りましょうか。これいいですね。デリーターの769」
クロを膝の上に乗せられたと思った瞬間、右手にリンゴを握らされる。
これをどうしろと……。
ため息まじりに目を伏せようとすると、誰かがひらひらと手を振ってそれを阻止する。
よくよく見ると、彼女はスケッチブックの文字を必死で指さしていた。
『バッキャロー、おまえみたいなドジはオレがいねーとダメだろッ!』
どうやらその台詞をオレに言わせたいらしい。
オレはそんなキャラに見えていたのか。
「ばっきゃろーおまえみたいな……」
「「「棒読み!!」」」
全員から突っ込まれ、オレは口を閉ざし、苦笑いしながら足を組む。
★青蔵馬さんが藪蛇をつつく話
20251228