そんなオレの肩にそっと手が置かれる。
「大丈夫ですか?」
 振り返るとオレがいる。

青蔵馬さんが藪蛇をつつく話

「大丈夫ではないかもしれません」
 別に助けを求めるつもりもなかったのだが、なぜか笑いと共にそんな言葉がこぼれた。
 声を掛けてきたオレも小さく笑い、隣に掛ける。
 つくづく「オレ」も苦労性だ。

「……昭和のヒーローってきっと2種類に分かれてて……」
「王子様系と番長系か……番長ってヤンキーのこと?」
「でしょうね……蔵馬は王子様だと思うけど、資料は圧倒的に番長キャラのほうが……ん? 蔵馬がふたり!」
「青さまだ!」
 なぜ一瞬でわかるんだろう。

「くらまっとー!」
「結局オレ、踏まれる運命なんですね」
 青のオレは仕方なさそうに笑い、その腕に絡みついてきた彼女の髪をくしゃりと撫でる。
「そうですか。クラマットは踏まれるほうが好みなんですね。それならそれで『ピ――――――――』」
「おい、海藤、ピンクが脱走してるぞ」
「あ、悪い」
 両脇から女性にがっちりと腕を組まれて連行されていくピンクを黙って見送ると、恐らく同じ表情をしていると思われる青と目が合う。

 美馬さんに言わせると、青のオレが一番紛らわしい、つまりオレに近いらしい。
 自覚はないが、言いたいことが分からないでもない。
 いや、すべてのオレがオレなんだが、この青の場合、幽助たちといるような気分になるのだ。

「じゃあやっぱり黒さまが番長ですよ、悪い子だから」
 ……オレは悪い子で不良グループのリーダーなのか……金八先生で腐ったミカンだかリンゴがどうとか呼ばれる人種か。幽助とキャラかぶりだな。いや、幽助は一匹狼だったか。桑原君は番長を目指していたのかな……。

 考えながらふと横を見ると、ヒラヒラのフリルまみれの真っ白なブラウスを着せられ、中途半端に金髪のウイッグを乗せられたオレが座っていてギョッとする。
「番長は学ランを着崩して……この制服、どうやって着崩したらいいんでしょう」
「一番上のホックを外してみるとか?」
「あ、この人腕まくりしてます」
 誰かの声と共に腕が伸びてきて、オレは黙ってされるがままになっておく。

「ただのクールビズって感じですね」
「番長は葉っぱをくわえているらしいです!」
「葉っぱ……? って、さすがに花瓶に入ってるのは不衛生ですよね……あ、このケーキの飾りのミントなら」
「な、なんか食べこぼしてるみたいになっちゃいました」
「生やしましょうか?」
 思わず口を挟むと、彼女たちは動揺しながら目配せをする。
「いえ、たぶん生えてるわけでは……」

「あの、よかったらどうぞ」
 隣から遠慮がちに、まさに力石徹がくわえていたような絶妙な葉っぱが差し出される。
 オレは黙ってそれを受け取り、くわえてみる。
 子供の頃は、腕っぷしが強く男気のあるキャラがこぞってくわえていた葉っぱに憧れがないわけでもなかった。

「さあ! どうぞ!」
 再び目の前でカンペが開かれる。
 『なんだお前、ヘンなやつ。プッ』
「らんらおまえへんら……」
「「「滑舌!!」」」
 ……と言われても、葉っぱをくわえて喋るのはなかなか難しい。
 オレは改めて、葉っぱをくわえたままあれだけの長台詞を喋っていた岩城正美に尊敬の念を抱き直す。

「守ってやる あ あ 守ってやる きっと きっと この命のつきる……」
「「「ラップか!!」」」
 隣のオレも罵声をくらわされている。

「あの、どうして昭和に走ってるんでしょう?」
 草を引き抜いて口を開くと、彼女たちはチラッと点を振り返る。
「目指せ全年齢対応型?」
「赤ちゃんからおばあちゃんにまで刺さる蔵馬をですね……」

 なるほど、”点”の取りこぼしを狙うということか。
 しかしそれは暗に美馬さんをおばあちゃんと言っていないか?
 ……とは思ったが、茶室が気まずい空気に満たされるのが目に見えるようだったので口を閉ざした。
 隣も頑なに沈黙を守っている。

 似ている似ていないはよく分からないが、少なくとも青のオレは一番空気を読める男だと思っている。
 そのオレが黙っているならそうすべきだし、彼女たちの好きにさせているならやはりそうすべきなのだろうと諦めがついた。



20251228