Let's Make Up ! ~南野君の場合~

 寒いから暖かいものでも食べようか、と言うとは迷いもなく幽助のラーメンがいい、と答えた。
 蔵馬も幽助のラーメンは好きだから行こう、と手を繋いだ。
 最近のデートは必ずといっていいほど、幽助のラーメン屋台に行く。
 だからすっかり常連客になってしまい、たまに1人で行くとケンカでもしたのか? と心配される始末だ。
 屋台に行くと幽助はいつものように迎えてくれ、手際よくラーメンを作る。
「おまち!」
「わーい幽助のラーメンだー」
 いただきまーす、と幸せそうにラーメンを食べるを見て、蔵馬は笑った。
「おいしー。幽助のラーメンは日本一だね」
「なにあったり前のこと言ってんだよ。オレ様が作ってんだぜ」
「今日はオレたち以外に客はいないの?」
 いつもは常連や、ちょっと立ち寄った、という客がいるのに。
「今日は特に寒いからな。寒い日こそラーメンだと思うんだけどよ。オメーらはどこ行ってたんだ? 遊園地か?」
「こんな寒い日に遊園地に行ってが風邪ひいたらどうするんだ」
「今日は買い物に付き合ってもらったの」
 買い物、と聞くと幽助は露骨に嫌な顔をした。
 幽助にとって女の買い物は嫌なものでしかない。
 さんざん歩き回されてあげく荷物持ちをさせられて。
「蔵馬…よく付き合うな」
「そう? 楽しいよ。なによりに似合うものを選んであげられるし」
 それに買い物に付き合うことによっての好みがわかるし、欲しいものもわかる。
 プレゼントをする時、最高の笑顔を見たいから参考になる。
 にこにこと蔵馬は笑うが幽助は理解しがたかった。
「おいしかったー、ごちそうさま」
 箸を置くとはちょっとごめんね、と横を向く。
 これはラーメンを食べた後のお決まりで、化粧直しをするのだ。
 そんなところは見られたくない、とは横を向く。
蔵馬はテーブルに散らばったのポーチの中身を拾っていると、色とりどりのメイク道具の中に大きなケースを見つけ手に取った。
 あまり見慣れないケース。なんだ、と開けると小さなルージュがたくさん並んでいる。
「なんだそれ」
「ルージュパレットですよ」
「口紅のことかって、なんだよ。口紅にこんなに色があるのか?」
「ありますよ」
「赤だけじゃねーのかよ」
「幽助…蛍子ちゃんと買い物に行って化粧品コーナーに行ったことないんですか? たくさん並んでるでしょう」
「んなとこオレは行かねぇ……」
 幽助らしい、と蔵馬は笑った。
 確かに幽助が化粧品コーナーにいる、なんて想像するだけでもおかしい。
 もう一度パレットに目を落とすと深みのある赤にピンクに近い赤。
 オレンジに近い赤もあれば、パールの入った華やかな赤もある。
 魔界の紅も少しは色の違うものもあったが、ここまで多彩ではない。
 やはり戦うことのない分、人間の女性の方がおしゃれには熱心だ。
「化粧品会社のヤツらも大変だよな」
「なにが」
「だって一口に赤ったって、こんだけ色があるんだぜ。考えるのも大変だと思わねーか?」
 確かに、と蔵馬も思った。
 微妙な違いの赤を作り、しかもシーズンごとに新色を出さなければならない。
 化粧品開発も大変だ。
「もーパレットがないと思ったら蔵馬が持ってたの?」
 見ると化粧直しをすませあとは口紅だけ、のが困ったようにしている。
 仕上げの口紅を、とパレットを探したが見つからなかったのだ。
「ごめんごめん、」
「オメーさ、こんだけ色があると迷わないか?」
「いろんな色があっていいじゃない。その日の服と気分に色を合わせることもできるし」
「オレにはわからねぇ……」
「幽助はもっと女心を勉強するべきですよ」
「うるせー」
 苦虫を噛み潰したような顔の幽助に笑いながら、蔵馬はパレットをに返した。
 は何色にしようかな、と選ぶがそうだ、と思い出した。
「新しく買った口紅にしよう!」
「はぁ? オメーこんだけ色があるのに、まだ買うのかよ」
「パレットにあるのとは違う色だよ?」
 持っていた紙袋を開けるとじゃーん、とは1本の口紅を見せた。
「見て見てールスティアの限定色フェアリーローズ」
「……なんだって?」
「ルスティアは化粧品メーカー。フェアリーローズは口紅の色ですよ」
 蔵馬がご丁寧に説明してくれるが、幽助はわかったような、わからないような。
「この色すっごい人気で、どこの店行っても売り切れてたの。でもやっと見つけたんだ」
「口紅なんかいつでも売ってるだろ」
「だったらいいけど、これ限定色なの。しかも再販は一切しないの。発売前のパンフレット見てから絶対に欲しいって思ってたんだ」
「買えてよかったよね。最後に行った店もちょうど最後の1本だったし」
「うん。でもごめんね、蔵馬。あちこち引っ張り回して」
「いいよ。のほしい口紅が買えたんだから」
「蔵馬…まさかと思うけど口紅1本買うために、何軒もハシゴしたのか?」
「しましたよ。それが?」
 絶対理解できない、と幽助は思った。
 そもそも蛍子との買い物でさえ次の店、と言われただけで嫌になるのに。
 そんなどこの店に行ってもない物を探すために何軒もハシゴするなど、幽助には理解不能だ。
「なぁ。と一緒に化粧品コーナーに行ったんだよな」
「行きましたよ」
 そう蔵馬が答えると幽助はニヤっと笑い
「オメーさ、こちらお試しになりませんか、とか言われなかった?」
 蔵馬がムッとすると幽助は予想通り、と大笑いした。
「そうなのよ幽助。私が口紅探してると、店員さんが蔵馬に声をかけるの」
「やっぱなー女に間違えられたんだ」
「なにが言いたい、幽助」
「別にー」
 嫌なことを思い出させてくれる。
 の口紅を探すために何軒も店をハシゴしたが、4回に1回は美容部員に声をかけられた。
 恋人と一緒だから、と言うとえっと驚かれ失礼しました、と謝られるのだ。
 中にはメンズもありますよ、と食い下がってくるのもいた。
 ちゃんと男の格好をしているのに、どうして間違えられるのか。
 と買い物に行くのは好きだが、化粧品コーナーはもうこりごりだ、と蔵馬は思っているがに頼まれればきっと断れない。
 惚れた弱み、だろう。
「ね、蔵馬」
「ああ、なに」
「口紅塗ってみない?」
「………………」
 聞き間違いであってほしい、と蔵馬は思わずにいられない。
 目の前の恋人はにこにこ笑ってなにを言うのだろう。
「。冗談は」
「本気よ。店員さんが蔵馬に言うたび思ってたの。蔵馬がメイクしたら絶対きれいだろうなって」
「オレ男だけど? それはも知ってるよね」
「当たり前じゃない。でも蔵馬ってきれいな顔立ちしてるから、絶対化粧映えすると思うの」
「オレが女の子に間違われるのが嫌なのを知ってて言う?」
 女の子に間違われるのは蔵馬にとって悩みの種だ。
 にふさわしい恋人はオレだ、と他の男たちに見せつけたいのに。
 それなのにどうしてはこんな事を言い出すのだろう。
 そんな蔵馬の気持ちも知らず、は蔵馬に化粧したくてたまらない。
「フルメイクは無理だろうから、口紅だけでも」
「い・や・だ」
「大丈夫よ。拭くだけ○ットンあるからすぐ落とせるし」
「そういう問題じゃない」
「おもしろそーじゃん」
「幽助。おもしろがらないでくれ」
「いいでしょ。口紅だけだし」
「よくない」
「なんで」
「どこの世界に化粧したいって男がいると思う?」
「新宿○丁目あたりに…」
「あれは特別な人たちです」
「口紅ぐらいいいじゃないの」
「絶対にいやだ」
「よし。手伝うぜ」
「本当? 幽助。じゃよろしく」
「オッケー」
 任せとけ、と幽助は屋台から出てくると、素早く蔵馬の後ろにまわって羽交い締めにした。
「幽助!」
「いいじゃねーか。の願いを叶えてやれよ」
「なら君が化粧すればいいだろ! 前に女装してたじゃないか!」
「あれは仕事だからやむを得ずやっただけだ!」
「蔵馬こっち向いて」
 いやだ、と横を向くがの手が頬に触れ、正面を向かされる。
 顔を背けようとするが
「じっとして。口紅が折れちゃう」
 その言葉に蔵馬は止まった。
 がどうしても欲しい、と言っていたフェアリーローズの口紅。
 あきらめきれなくて何軒もハシゴして最後の店、と入ったらやっと見つけたのだ。
 最後の1本なんですよ、と店員に言われは最高の笑顔を見せた。
 今ここで蔵馬が口紅を折ったらはどれだけ悲しむだろうか。
 そんなことを思ってる間に蔵馬の唇にリップクリームとは違う感触が触れた。
 しまった、と思う間もなくは口紅を塗っていく。
「おい、。うまくいったか?」
 塗り終わったはじっと蔵馬を見ている。
 どれどれ、と幽助も蔵馬を覗き込むと
「蔵馬キレー」
「ぎゃははははははは」
 が感動するのと幽助が笑い出すのは同時だった。
 誰もが認める美少年の蔵馬。
 その蔵馬が口紅を付けると顔立ちが更にハッキリとする。
 これなら女と間違われても仕方がないだろう。
「蔵馬キレイ~すっごい似合う」
「オメー似合うなぁ」
「蔵馬蔵馬。フルメイク」
「口紅だけって言ってたよね?」
「やってやれよ。。手伝うぜ」
「……幽助……」
「ねー蔵馬ってばぁ。フルメイク~」
 ね、と言うの手首を蔵馬は掴んだ。
「。口紅がまだだったよね。オレが塗ってあげるよ」
 え、とが聞き返す前に蔵馬はの両頬を包み、素早くキスをした。
 はもちろんいきなりのキスに驚いたが、それ以上に驚いたのは幽助の方だった。
「おっおい!」
 幽助の声には我に返り蔵馬の胸を押すが、蔵馬が離してくれる気配がない。
 幽助が見てるのに、こんなところでキスはいや、と心の中で叫んでいるとやっと蔵馬は唇を離した。
「おいこら! 公衆の面前でなにやってんだよ!」
「舌は入れてないからいいだろ」
「しっ舌とかそういう問題じゃなくてだ!」
「オレはに口紅を塗ってあげただけです」
 しれっと答えながら蔵馬は拭くだけ○ットンで口紅を拭いている。
 この男の神経はどーなってんだ、と幽助は思わずにいられない。
 が耳まで真っ赤にして恥ずかしがってるというのに。
「キスのどこが」
 顔を真っ赤にして睨むは、蔵馬にとってかわいい以外の何者でもないが、もう一度手首を掴んで顔を近づけ
「口移しだったんだけど、いやだった?」
 そんなことを目の前で妖しく微笑みながら言われ、はさらに真っ赤になった。
「いっいやに決まってるじゃない! もう帰る!」
 は立ち上がって帰ろうとしたが、できなかった。
 蔵馬がしっかりと手首を掴んでいるのだ。
「蔵馬。離して」
「いやだね。オレは男だって言ってるのに、はオレに化粧したがる。お仕置きが必要かな」
「おっお仕置き?」
 物騒な言葉にはヒヤリとするが、蔵馬はにっこり笑い
「そ。今夜、一晩かけてじっくりオレは男だって教えてあげるから」
「蔵馬よぉ…よくそんなこと言えるな。つーかをからかうのやめろよ」
「からかってませんよ。オレは本気だし。それよりも幽助」
「あ?」
「覚えてろよ」
 その冷たい声と視線に、幽助は背中に悪寒を感じた。
 そうだ。蔵馬に口紅、なんておもしろい事に夢中になっていたが、蔵馬を怒らせると怖いことを幽助はすっかり忘れていた。
 一体どんな仕返しが待っているのか、考えるだけでも恐ろしい。
「さ、。行こうか」
「幽助、助けて~」
「助けてやりてぇけど…無理だわ。まぁがんばれよ」
「なにをがんばるってのー!」
「。行きますよ」
「蔵馬ごめんなさい。もうしないから」
 そんなの懇願もむなしく、引きずられるように連れて行かれ、充分に蔵馬が男だ、と教えられた。
 口紅を塗った蔵馬はきれいだったけど、言うのは絶対にやめよう、と決心するだった。
 でもいつかは蔵馬にフルメイクしたい、という思いが捨てられないのは内緒。
 さて幽助ですが、どんな目に遭ったのか知りません。
 蔵馬の仕返しをおそれて幽助は一ヶ月タダにする、ということで一応は手を打ってもらったらしい。
 ただあくまでも「一応」なのでいつなにがあるか、蔵馬に会うたび幽助は内心でビクビクしているそうな。
 蔵馬恐るべし!
 だってなかなか口紅塗らせてくれないんだもん……By 書いた人

このお話の妖狐バージョン
『Let's Make Up!! / Part1』


 書き始めて気が付いたのですが、幽助初書きでした(汗)
 秀一くんも久しぶりだったので蔵馬と幽助、ちゃんと書けてるか心配です。
 やっぱり蔵馬(秀一)は一筋縄ではいきません。妖狐のようにテンポよく、と思っていたのに肝心の口紅をなかなか塗らせてくれません。なので幽助に犠牲になっ…いえいえ、お手伝いしていただいきました。
 蔵馬は妖狐の方が書きやすいです。ハイ。お粗末……


わーいわーい! 葉葛さん、ありがとうございました。
以前、頂戴していた妖狐蔵馬のお話『Let's Make Up!』の南野君バージョンです!
管理人がしつこく「南野は~? ねえねえ南野は~? 南野君のっ、お化粧したトコ、み・て・み・た・いっ!!」と強制的に書かせてしまいました(笑)
葉葛さん、幽助、ちゃん、グッジョブ☆
これを書いてしまった葉葛さんは、ひたすらに蔵馬の報復を恐れていらっしゃいますので、後ほど美馬流・対魔界植物必勝法を伝授差し上げます。
それより何よりそそのかした私のところにシマネキソウが来る可能性のほうが高いので心配することはありません……
そう言えば、葉葛さんの南野蔵馬にお会いするのはこれが初めてでした。初対面で物凄い事になっております。
結局黒いけど、何だかとっても優しいのですvこんな蔵馬とラーメン食べに行きたいですv
素敵なお話を、本当にどうもありがとうございました☆★

20060127葉葛様